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京都地方裁判所 昭和35年(ワ)1153号 判決 1965年3月13日

昭和三二年(ワ)第一四五号事件原告 同 三五年(ワ)第一、一五三号事件被告 森惣一

<外一名>

昭和三五年(ワ)第一、一五三号事件被告 長谷川繁三

<外三名>

以上六名訴訟代理人弁護士 石川停三

昭和三五年(ワ)第一、一五三号事件被告 尾沢政子

右訴訟代理人弁護士 鈴木権太郎

昭和三五年(ワ)第一、一五三号事件原告 同 三二年(ワ)第一四五号事件被告 高谷政次郎

<外八名>

昭和三五年(ワ)第一、一五三号事件原告 小山照造

<外二名>

以上一二名訴訟代理人弁護士 表権七

主文

昭和三二年(ワ)第一四五号事件原告等の請求を棄却する。

昭和三五年(ワ)第一、一五三号事件原告等の請求を棄却する。

訴訟費用中、昭和三二年(ワ)第一四五号事件につき生じた分は同事件原告等の負担とし、昭和三五年(ワ)第一、一五三号事件につき生じた分は同事件原告等の負担とする。

事実

以下、便宜上、昭和三二年(ワ)第一四五号事件を土地明渡事件といい、同三五年(ワ)第一、一五三号事件を登記抹消事件という。

第一、土地明渡事件について

一、同事件原告(以下、同事件に関しては単に原告という、被告の場合も同じ)等の申立

「原告等に対し、被告高谷政次郎は、別紙目録記載一、二の土地のうち同被告占有部分(以下、各被告占有部分については別紙図面記載のとおり)を、被告大下国造は、同五の土地のうち同占有部分を、被告大西久三は、同五、六の土地のうち同占有部分を、被告湊孝三郎は、同六の土地のうち同占有部分を、被告小山政一は、同一、二の土地のうち同占有部分を、被告大西政右衛門は、同五、六の土地のうち同占有部分を、被告田和喜太郎は、同五の土地のうち同占有部分を被告青山善一は、同五の土地のうち同占有部分をそれぞれ引渡せ。原告森惣一に対し、被告小山政一は、同三の土地のうち同占有部分を、被告山本幸助は、同四の土地のうち同占有部分を被告田和喜太郎は、同四の土地のうち同占有部分を、被告青山善一は、同三の土地のうち同占有部分を、それぞれ引渡せ。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

二、被告等の申立

主文第一項同旨および「訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決ならびに被告等敗訴の場合、担保を条件とする仮執行免脱の宣言を求める。

三、原告等主張の請求原因

(一)  原告等は、昭和三一年一一月五日、登記抹消事件被告平田是龍から、別紙目録一、二の土地を、同梅原幸男から、同目録五、六の土地を、それぞれ買受け、原告森惣一は、同日、登記抹消事件被告山口茂一から、同目録三、四の土地を買受けた。

(二)  そして、原告等は、右一、二、五、六の土地を共有し、原告森惣一は、右三、四の土地を所有している。

(三)  ところが、被告等は、右土地のうちそれぞれ原告等の申立により引渡を求められている部分を占有している。

(四)  よって、原告等は、被告等に対し、申立のとおりその引渡を求める。

四、請求原因に対する被告等の答弁

原告等主張の請求原因(一)(三)の事実は認めるが、同(二)は否認する。

五、被告等の抗弁

(一)  別紙目録一ないし六の土地(以下、本件土地という)は、原告等がそれぞれ買受けた当時より農地であったから、その所有権を移転するには、農地法第三条により京都府知事の許可を要するにもかかわらず、原告等は、その主張する各売買に因る所有権移転について、右許可を受けていないので、その所有権を取得していない。

(二)  仮りに、原告等が所有権を取得したとしても、その後被告等が時効により本件土地の各占有部分の所有権を取得したので、原告等は所有者でない。

すなわち、本件土地(元山林)は、別紙目録記載のとおり、それぞれ登記抹消事件被告平田、同山口、同梅原の所有であったが、宇治市宇治農地委員会は、昭和二二年一二月一六日自作農創設特別措置法(以下、自創法という)により未墾地として買収計画を樹立し、被告等をそれぞれ別紙目録の各占有部分の開墾者とし、かつ、売渡を受くべき者とし、翌二三年二月一六日を開墾期限と指定して被告等に通知し、同月一七日開墾状況の現地調査をなし、被告等の手により本件土地がすべて農地になっていることを確認した上、更に以後買収手続を進め、同委員会長は、各開墾者に対し、昭和二三年一二月二〇日付で売渡の決定ならびに対価および負担金を納付すべき旨の通知をなしたので、被告等は、昭和二四年二月末日までに占有部分の売渡対価を右委員会にそれぞれ完納している。

従って、被告等は、右委員会の手続を適法と信じ昭和二二年一二月一七日所有の意思で開墾に着手し、以来農地として耕作占有し続けているから、各被告は、前記開墾者の指定を受けて開墾に着手したとき、あるいは、右売渡対価を完納したとき以来、善意、無過失で、各自の割当占有部分を自己の所有とし、道路部分を共有する意思で、平穏、公然に占有を続けたので、各占有部分につき、原告等の本件土地についての所有権取得登記がなされた以後である、昭和三二年一二月一七日又は、同三四年二月末日を以て取得時効が完成した。よって被告等は本訴において右時効を援用する。

六、抗弁に対する原告等の答弁

被告等主張の抗弁事実中原告等が京都府知事の許可を受けなかったことは認めるが、その余の事実は否認する。

(一)  本件土地は山林であるからこそ、原告等買受当時も登記簿上地目が山林になっていたのであるから、知事の許可なくして売買できるものである。さもなくば、法務局は職権で地目を変更している筈である。

(二)  被告等の占有には所有の意思がない。けだし、開墾地として所有権を取得するには知事の認可を要することは、何人も知得するところであるが、本件土地には右認可はなかったし、対価の徴収は知事でなければ出来ないから、委員会の徴収は無効であることは、被告等も知っていたからである。仮りに、所有の意思があったとすれば、被告等には過失がある。

本件土地については、昭和二六年頃から同三〇年頃にかけて、開墾地として認可にならないから、所有者より買取るように農地委員長より話があり、被告等は、それを知りながら、買受けなかったものである。

第二、登記抹消事件について

一、同事件原告(以下、同事件に関しては単に原告という、被告の場合も同じ)等の申立

「被告森惣一、同森伊三男は、原告高谷政次郎、同小山政一、同小山照造に対し、別紙目録一の土地についてなされた(2)(3)(4)、同目録一の三の土地についてなされた(5)の各登記、原告高谷政次郎、同小山政一に対し、同目録二の土地についてなされた(2)の登記、原告大下国造、同大西久三、同大西政右衛門、同田和喜太郎、同青山善一に対し、同目録五の土地についてなされた(2)(3)の登記、同目録五の一の土地についてなされた(4)の登記、原告大西久三、同湊孝三郎、同大西政右衛門に対し、同目録六の土地についてなされた(2)(3)の登記、同目録六の一の土地についてなされた(4)の登記の各抹消登記手続をせよ。被告長谷川繁三は、原告高谷政次郎、同小山政一、同小山照造に対し、同目録一の三の土地についてなされた(6)の登記、被告森惣一は、原告小山政一、同西川寅造、同尊田三右衛門に対し、同目録三の土地についてなされた(2)の登記、原告山本幸助、同田和喜太郎、同青山善一に対し、同目録四の土地についてなされた(2)の登記、原告尾沢政子は、原告小山政一、同西川寅造、同尊田三右衛門に対し、同目録三の土地についてなされた(4)の登記、原告山本幸助、同田和喜太郎、同青山善一に対し、同目録四の土地についてなされた(4)の登記の各抹消登記手続をせよ。

被告平田是龍は、同目録一、二の土地につき、同山口茂一は、同目録三、四の土地につき、同梅原幸男は、同目録五、六の土地につき、同目録耕作者欄記載の各原告に対し、それぞれの割当面積に従い、その占有部分(別紙図面記載)のとおりに分割して、各所有権移転登記手続をせよ。

訴訟費用は各土地の坪数に応じそれぞれ関係被告等の連帯負担とする。」との判決を求める。

二、被告等の申立

主文第二項同旨および「訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求める。

三、原告等主張の請求原因

(一)  本件各土地について、別紙目録記載登記事項欄記載のとおりの登記がなされている。

(二)  土地明渡事件について同事件被告等が抗弁(二)で主張したとおり本件原告等(土地明渡事件被告でない本件原告についても同様)は時効により本件土地の各占有部分の所有権を取得した。

(三)  右経緯から、原告等は、各物件の買収手続は当然完了しているものと信じていたのであるが、実は所有名義人は、依然として被告平田、同山口、同梅原のままであったところ、被告森惣一、同森伊三男は、別紙目録記載のとおり売買による所有権移転登記をした。しかし、右登記当時各土地は農地であるのに、同被告等は京都府知事の許可を受けずにその所有権の移転を受けたのであるから、右所有権移転は無効である。従って右所有権移転登記およびその後になされた登記はいずれも抹消さるべきである。

(四)  別紙目録一の三の土地につきなされた(6)の登記は、仮りに右主張が理由なくとも、同目録一の土地は全部農地であるのに、一の三の土地に分筆して雑種地と地目を変更した上京都府知事の許可を受けずに所有権の移転をしたのであるから、右移転は無効であり、その登記は抹消さるべきである。

(五)  元所有者である被告平田、同山口、同梅原は、時効取得した各原告に対し、本件各土地を各割当占有部分に分割した上それぞれ所有権移転登記手続をする義務がある。

(六)  よって、原告等は被告等に対し、申立のとおり各登記手続をなすことを求める。

四、請求原因に対する被告等の答弁

原告等主張の請求原因中(1)の事実は認めるが、その余の事実は否認する。

請求原因(2)については、土地明渡事件について、同事件原告等が抗弁に対する答弁(二)で述べたとおり、本件原告等には所有の意思がないか又は所有と信ずるにつき過失があったものである。

請求原因(三)については右答弁(一)で述べたとおり本件土地は農地でなかったから登記はいずれも有効であり、被告森惣一、同森伊三男、同長谷川、同尾沢はいずれも登記どおり正当な権利者である。

第三、証拠≪省略≫

理由

第一、土地明渡事件について

原告等主張の請求原因(一)(三)の事実は当事者間に争がない。原告等が本件土地所有権取得について、農地法第三条に定める知事の許可を受けていないことは、原告等の認めるところであるから、右買受当時(昭和三一年一一月五日)より本件土地中原告等が明渡を求める被告等占有部分(以下、本件被告等占有土地という)が農地法にいう農地であったかどうかを判断する。

≪証拠省略≫によれば、本件被告等占有土地は、昭和二三年頃までいずれも竹籔であったが、同年一一月二三日頃、宇治町農地委員会の定めた自創法による売渡計画に基づく同委員会の割当ならびに指示に従い、被告大西久三を除く被告等、被告大西久三の父大西清太郎は、同年一二月から翌二四年二月末日までの間に、本件被告等占有土地の開墾を完了し、原告等買受当時(昭和三一年一一月五日)より本件被告等占有土地は、右被告等により茶園、菜園、麦畑、竹または筍栽培地等として、現に耕作されているか、又は耕作を一時休んではいるが即時容易に耕作の目的に供することのできる土地であったことを認めることができる。

以上認定を覆えすにたる証拠はない。

よって、原告等買受当時より、本件被告等占有土地はいずれも農地法にいう農地に該当するものと認める。

本件のように、無権利者が開墾によって農地とした場合においても、農地法第三条の適用があり、知事の許可を受けない限り、その所有権移転の効力を生じないものと解するのが相当である。

してみると、本件被告等占有土地の所有権取得について知事の許可を受けていない以上、その所有権は未だ原告等に移転していないから、原告等が所有者であることを前提とする被告等に対する本件被告等占有土地の引渡請求は、その余の判断をするまでもなく、失当である。

第二、登記抹消事件について

本件土地につき、別紙目録登記事項欄記載のとおりの各登記がなされていたことは、当事者間に争がない。

原告等は、一〇年の取得時効により、本件土地中各原告等占有部分の所有権を取得したと主張し、被告等は、これを争うので、この点について判断する。

≪証拠省略≫によれば、宇治町農地委員会は、昭和二三年三月頃、本件土地について、自創法による未墾地買収計画を定めて公告し、念のため所有者である被告平田、同山口、同梅原等に対して買収計画を通知し、続いて右買収計画に関する書類を京都府農地委員会に提出したが、内容不備により返戻を受けたところ、右買収手続未了のまま同年一一月二四日頃本件土地の売渡計画を定めて買受予定者である原告等(但し原告大西久三については父大西清太郎、原告田和喜太郎については長男田和清正)に対し、割当面積、対価等を通知し、開墾期限を翌二四年二月末日と定めて開墾をうながし、買収および売渡計画について京都府農地委員会の承認もなく、京都府知事の買収令書、売渡通知書の交付もないまま、昭和二三年一一月から翌二四年八月頃までの間に、原告等より一反当り二〇〇円の対価相当金、委員会の負担金等を徴収して仮領収書を発行し、同二四年三月頃買収と売渡計画に関する書類を京都府の地方事務所農地課へ提出したつもりでいたところ、事務の手違いのため府の農地委員会に届かず、その後未だに書類の所在が不明であって、知事の買収令書、売渡通知書はもとより、府の農地委員会の承認すら受けることなく放任され、現在に至っていること、一方原告等は、知事の売渡通知書の交付を受けることなく、昭和二三年一二月頃から翌二四年二月末頃までの間に本件土地中別紙目録記載の各占有部分の開墾を概ね完了し、引続き現在に至るまで右各部分の占有、耕作を続けていることを認めることができる。

以上認定を覆えすにたる証拠はない。

右事実によれば、自創法による本件土地の未墾地買収、売渡の当初の手続は進められたとはいえ、買収処分、売渡処分そのものは外形的にもまったく存在しない。

本件のように、未墾地売渡通知書の交付がない場合、仮りに、原告等が、その主張のように、町農地委員会によってなされた、開墾指示、未墾地売渡計画の通知、売渡対価の仮領収等の事実から、本件土地中原告等各占有部分の未墾地売渡処分を受けその所有権を取得したと信じて、これを占有したものとしても、原告等は、占有のはじめ、自己の所有と信じたことに過失があったものと認めるのが相当である。

従って、一〇年間の占有では、原告等はいずれも本件土地中原告等各占有部分の所有権を取得できず、原告等に所有権があることを前提とする原告等の被告等に対する各登記手続請求は、その余の判断をするまでもなく、失当である。

よって、土地明渡事件原告等、登記抹消事件原告等の請求を、いずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小西勝 裁判官 石田恒良 堀口武彦)

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